破産手続における厚生年金基金の脱退時特別掛金の処理(2)
最近、私が申立人代理人として関与した法人(ここでは「甲会社」と言っておきます。)の破産事件のケースを挙げてお話したいと思います。甲会社は土木を主業務とし、優れた専門技術を持った会社でしたが、公共工事の減少や不況に勝てず、経営不振から破産手続開始申立をすることになりました。
破産開始決定後、暫く経ってから甲会社が加入していたA厚生年金基金から破産管財人に「脱退時特別掛金があり、これは優先して支払われるべきであるから支払うように。」と連絡がありました。破産管財人が請求には疑義があることを述べると、A厚生年金基金の担当者は破産管財人に対して「審査請求をするように」とか「弁護士会に異議を述べる」とか申し述べてきたそうです。
しかしながら、審査請求については、脱退時特別掛金そのものの存否を争うのであればともかくとして、脱退時特別掛金の存在を前提として、当該債権を財団債権とみるのか、それとも劣後的破産債権としてみるのかの審理をするものではないので、審査請求をしても全く意味はありません。
弁護士会への異議については、特にコメントする必要もないと思います。
では、脱退時特別掛金は財団債権として取り扱うべきなのでしょうか。それとも劣後的破産債権として取り扱うべきなのでしょうか。
破産実務Q&A200問(きんざい)では執筆者の弁護士は次のようにコメントしています。
「破産手続開始前の原因に基づくというためには、破産手続開始時に債権の発生に必要な主たる部分が備わっていれば足りるとするのが判例・通説です(一部具備説)。」「規約で定められた脱退時特別掛金が過去勤務債務の未償却部分と責任準備金の不足額からなり、基金がこれを一定期間で解消するために毎月事業主から徴収しているような場合で、事業主の破産手続開始により、それまで分納していた脱退時特別掛金を一括納付させるような内容であれば、脱退時特別掛金の請求権が破産手続開始前の原因に基づくものであることを争うことには困難な面がありますが、脱退時特別掛金の内容や発生要件は当該基金の規約によって規律されているため、ここでも規約の内容を具体的に検討することが必要です。」
一部具備説についてはそのとおりかと思いますが、そもそも、掛金そのものは定期的に一定の金額が発生していくものであり、掛金のうちの標準掛金を除く特別掛金の部分だけを取り出して、これをあたかも期限未到来の債権のように取り扱うことには少し違和感を覚えます。
また、特別掛金が過去勤務債務の未償却部分と責任準備金の不足額を償却するためのものであったとしても、それは結局のところ、基金の財産的基盤を確保するための特別掛金の計算方法でしかなく、(例えば、特別掛金はその時々の基金の財政状況に応じて適宜修正し、変化することが予定されており、一定の金額が既に確定的に決まっていて、当該金額を完済すれば掛金の負担が終了するというものではありません。)上記見解は特別掛金における単なる計算方法と具体的な債権の発生原因とを混同したものではないのかとの疑問も払拭できないところではあります。
(3)へ続く