高松総合法律事務所の法律ブログ

インターネット法律相談の落とし穴(2)

2014年9月17日  カテゴリ:弁護士

 インターネットでの相談が不正確になってしまうのに弁護士側の原因もあると思われます。
 インターネット相談が無料で行われる場合,その相談に応じる弁護士の目的としては,①単なる善意,②自分の宣伝・広告,の2つが考えられますが,②の目的で弁護士が法律相談に応じる場合,相談者に評価されることが自分の宣伝にも繋がることからか相談者に対し過度に迎合的になっているのではないかと思われるものが見受けられます。

 具体例として,ある相談者(甲さんとします。)から次のようなインターネット法律相談と回答がありました。
 甲さんは閉店間際の温浴施設で20万円を盗まれました。清掃員が自分が荷物を入れていたロッカーの鍵を開けてしまったためということです。このことで甲さんは精神的ショックを受けて通院を余儀なくされました。甲さんは施設管理者に盗まれた20万円と通院費,慰謝料50万円を支払って欲しいと希望しています。

 甲さんの相談について,A弁護士は「施設管理者が責任を負う」と回答しています。
 しかし,本当に施設管理者は責任を負うのでしょうか。

 この相談に出てきた温浴施設のように客の来集を目的とする場屋の取引営業のことを場屋営業といいますが,商法は場屋営業者の責任を以下のように規定しています。

第594条
 旅店、飲食店、浴場其他客ノ来集ヲ目的トスル場屋ノ主人ハ客ヨリ寄託ヲ受ケタル物品ノ滅失又ハ毀損ニ付キ其不可抗力ニ因リタルコトヲ証明スルニ非サレハ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
2 客カ特ニ寄託セサル物品ト雖モ場屋中ニ携帯シタル物品カ場屋ノ主人又ハ其使用人ノ不注意ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ場屋ノ主人ハ損害賠償ノ責ニ任ス
3 客ノ携帯品ニ付キ責任ヲ負ハサル旨ヲ告示シタルトキト雖モ場屋ノ主人ハ前二項ノ責任ヲ免ルルコトヲ得ス

第595条
 貨幣、有価証券其他ノ高価品ニ付テハ客カ其種類及ヒ価額ヲ明告シテ之ヲ前条ノ場屋ノ主人ニ寄託シタルニ非サレハ其場屋ノ主人ハ其物品ノ滅失又ハ毀損ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任セス

 少しわかりにくいですが,要するに,商法594条はお客さんが物を寄託した場合には不可抗力ではない限り賠償責任を負い,物を寄託しなかったとしても不注意があった場合は賠償責任を負うという原則を規定し,商法595条は,お金の場合にはその金額を明らかにして預けた場合ではない限り責任を負わないという特則を規定しています。

 甲さんはお金のことを施設側に申告することなく荷物と一緒にロッカーの中に入れていたようなので,そうすると甲さんは商法595条によって施設側にお金を請求することができないということになりそうです。
 
 ただ,商法595条はいわゆる任意規定であり,これと異なる合意を施設利用者との間ですることは可能なので,施設の利用約款によっては当該約款に基づいて施設が賠償責任を負う可能性はあります。(なお,一般的にはこのような利用約款は施設側の責任を制限する方向で定められていることが多いと思います。)

 もっとも,このような利用約款や商法595条が施設に故意,重過失のある場合にまで適用が認められるわけではありません。
 最高裁平成15年2月28日判決は,「15万円を限度として」賠償責任を負うとするホテルの利用約款について,ホテルに故意または重過失のある場合には適用されないとしています。
 商法595条については,この点に直接言及した最高裁判例はありませんが,最判平成15年2月28日のロジックは同条にも当てはまるのではないかと考えられます。(私見です。)

 そうすると,施設側に重過失がある場合には施設が賠償責任を負う余地があると考えられます。
 本件では具体的事情はよくわかりませんが,例えば,清掃員がロッカーの鍵を開けて長時間放置していたような場合には重過失ありと評価される可能性が高いでしょう。他方,清掃員がロッカーの鍵を開けたもののその近くで清掃作業をしており,ロッカーへの目が行き届いていたような場合であれば,清掃員がロッカーの鍵を開けたときとは別の機会に現金が盗まれたものであり,施設側に重過失があったとまでは言い難いのではないでしょうか。

 このとおり,A弁護士の回答が明らかに間違っているとまでは言うつもりはありませんが,具体的事情によって様々に結論が変わりうるのであり,単純に「施設側が責任を負う」と言えるような事案ではないのです。

 ところで,さかのぼって考えてみると,なぜ甲さんは閉店間際の時間帯の温浴施設に来るのに20万円もの大金を持ってきたのでしょうか。むしろこういった施設に来る際には多額の現金や貴重品は持ち込まないようにするのが通常ではないでしょうか。(甲さんは20万円を大金と考えないような裕福な方だったと考えることは一応可能でしょう。しかし,20万円を盗まれて精神的ショックから通院しているようなので,これは違うように思われます。)
 甲さんの請求が過剰であることも気になります。本件で通院費や慰謝料が損害として裁判で認められることはないでしょう。甲さんは法律の素人ではあるのでしょうが,たとえ法律の素人であっても20万円を盗まれて50万円の慰謝料を請求することは,普通に考えると過剰であることは認識できるのではないでしょうか。
 私は,甲さんが本当に20万円を盗まれたのか相当疑わしいと考えます。仮に私が温浴施設の顧問弁護士であれば,甲さんの請求を拒否させます。

 インターネット相談でA弁護士から自分に都合のよい回答が得られた甲さんは,施設側へ損害賠償請求するのかもしれません。
 しかし,現実の甲さんには前途多難な状況が待ち受けているように思います。

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