破産手続における厚生年金基金の脱退時特別掛金の処理(1)
厚生年金基金の掛金には年金資金の原資となる標準掛金のほか、積立不足金を償却するための特別掛金があります。
事業所の脱退等で基金の事業所が減少する場合、当該減少に伴い他の設立事業所に係る掛金が増加することとなるときは、当該基金は、当該増加する額に相当する額として厚生労働省令で定める計算方法のうち規約で定めるものにより算定した額を、当該減少に係る設立事業所の事業主から掛金として一括して徴収し、(厚生年金保険法138条5項)これを脱退時特別掛金などと称します。
破産開始決定により会社は解散となるので、(会社法471条5号)厚生年金基金からも当然に脱退するということになりますが、株式会社の破産開始決定後、しばしば厚生年金基金から法外(?)な金額の脱退時特別掛金の請求があり、その取扱いには頭を悩ませることがあります。
この点、基金の掛金はこれを滞納した場合には国税滞納処分の例によって徴収されることとなっているため「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」(破産法97条4号)にあたり、破産手続開始前の原因に基づくものは財団債権として取り扱われ、破産手続開始後のものは原則劣後的破産債権として取り扱われます。(破産法148条1項3号、破産法97条4号)
脱退時特別掛金は通常金額が多額であり、これを財団債権として取り扱うことになれば労働債権を含む他の財団債権への影響が大きく、また、一般破産債権への配当への影響も大きいのに対して、これを劣後的破産債権として取り扱うことになれば、財団債権や一般破産債権への影響はなくなり、ほとんどの場合で脱退時特別掛金に対する支払はないことになります。
では、脱退時特別掛金を財団債権として取り扱うことが妥当なのか、それとも劣後的破産債権として取り扱うことが妥当なのか、近時私が申立代理人として関与した法人破産のケースをもとに検討を加えていきたいと思います。
なお、脱退時特別掛金について、厚生年金基金の規約によっても、それは事業主の意思に基づく脱退の場合に一括納付義務を定めたものと限定解釈すべきであり、破産開始決定による基金の脱退の場合には適用がなく、脱退時特別掛金は発生しないとの見解もあるようですが、このブログでは当該見解については検討を端折り、破産開始決定の場合にも脱退時特別掛金は発生することを前提としてその取扱いについて検討することとします。
(2)へ続く