後遺障害等級認定時
症状固定後に一定の症状が残存する場合、自賠責保険ではその軽重に合わせて、1級から14級の後遺障害等級に分類されます。残存する症状が軽微で所定の条件を満たさないものは「非該当」として取り扱われます。
後遺障害等級の判断基準は労災の場合のものが準用されていますが、労災とは異なり、もっぱら診断書、画像等の書類審査で等級が認定されます。(醜状障害を除きます。)
後遺障害等級認定は自賠責保険会社が窓口になりますが、実際には「損害保険料率算出機構」という団体が判断します。
後遺障害等級の違いによって慰謝料、逸失利益等といった被害者の損害額に差が生じるのが基本であるため、後遺障害等級が何級になるのかは被害者の重大な関心事となります。
後遺障害等級認定の手続
後遺障害等級認定の手続には任意保険会社が行う「事前認定」と被害者側が自賠責保険金請求の形で行う「被害者請求」があります。後遺障害等級認定が原則書面審理であることから、両手続きには以下のようなメリット、デメリットがあります。
●事前認定
【メリット】
手続きを任意保険会社に任せられるので楽である。
【デメリット】
等級認定が原則書面審理であることから、診断書の記載が不十分、必要な検査がなされていないなどの場合に、被害者側のチェックが働かないまま不当な等級になるおそれがある。
●被害者請求
【メリット】
被害者側において診断書の記載不備、検査の未施行などを主体的に確認でき、事前認定でのデメリットを回避できる。
【デメリット】
手続きが煩わしい。
後遺障害等級認定と専門家への依頼
近時、後遺障害等級認定を行うとする行政書士やNPO法人のサイトをよく目にすることがありますが、これはその方法や費用の取り決めかたによっては弁護士法72条(非弁行為の禁止)に違反する違法な行為となります。
その点を措くとしても、後遺障害等級認定はあくまで損害賠償請求のための手段であって、それ自体が目的ではないことに留意しておく必要があります。
つまり、後遺障害等級認定手続きは当該手続きが終了したらそれで完結するのではなく、その後、損害賠償請求を行うことになります。その場合に被害者が自分で示談交渉をしても低額な任意保険会社の基準しか提示されませんから、適切な賠償金取得のためには弁護士を探して弁護士介入とする必要があります。
そうであれば、いっそのこと最初から弁護士にすべてをワンストップで委ねたほうが合理的です。
行政書士等のサイトのなかには「提携の弁護士を紹介する」等としているものがありますが、コストの面から見ても、行政書士等と弁護士とを二重に介入させ、二重に費用が発生するのは無駄でしょう。
その被害者請求を委任することは本当に必要か?
後遺障害等級認定のために被害者請求を請け負うとする行政書士等のサイトのなかには、いささか過度にその効果を喧伝していると思われるものがあります。
書面審理という後遺障害等級認定手続きの特質から、漫然と手続きの流れに身を任せた場合に、実態に即しない不当な等級になる可能性があるのは確かで、それを防ぐ必要があることはそのとおりです。そして、多数の弁護士には未だその点の認識が希薄であることもまた真実だと思います。
しかし、後遺障害等級認定のために、常に被害者請求をして追加の検査等を実施する必要性があるわけではありません。
行政書士等のサイトには「1級から14級まで実績あり」などと表記するものもあります。しかし、それらは本当にすべて被害者に金銭を負担させ(過大な報酬を請求するものもあるようです。)行政書士等が手続きを行う必要があったものなのでしょうか?
例えば、頭部外傷後、遷延性意識障害になってしまい寝たきりのケースであれば、別表第一第1級1号が認定されます。これは素人が手続きをしようとプロが手続きをしようと変わることはありません。もちろん事前認定でも変わりません。より軽い障害の場合でも、例えば、上腕骨骨頭骨折の後、肩関節可動域制限が健側に比して4分の3以下程度であることが明らかで、障害がそれに尽きるようなケースでは、別表第二第12級6号が認定されます。
こういったケースで追加の検査は不要です。病院同行も必要ありません。お金をかけて行政書士等に被害者請求を委ねてもお金の無駄です。
後遺障害等級認定に明るい弁護士であれば、このあたりのことも客観的な視点から助言できるのではないかと思います。