インターネット法律相談の落とし穴(3)
インターネット法律相談における弁護士側の問題について指摘しましたが、もう1例挙げたいと思います。
ある相談者(乙さんとします。)からは次のような相談がありました。
乙さんは夫のDVがきっかけで別居した。これまで夫から様々な暴言等があり精神的ダメージを負った。乙さんは夫から離婚調停を起こされたのだが、別居期間が長いと離婚が認められるのではないかと心配である。乙さんは離婚したくない。(なお、DVは10年間で3回程度とのこと。実際の乙さんは既に弁護士に委任しているようです。)
この相談について、インターネット上でB弁護士は「別居期間が長いと離婚が認められる可能性がある。調停で話し合うべき。」と回答します。
これに対して、C弁護士は「モラハラ夫と話し合いの余地などない。」「B弁護士はモラハラに対する理解がない。」という趣旨のことを述べてB弁護士を糾弾します。さらに「法律家一般にモラハラの理解がない。」「裁判では夫にはモラハラによる有責性が認められ離婚請求が排斥されるべき。」という趣旨の回答をしています。
ちなみに、どうやら乙さんが依頼している弁護士は裁判の見通しを消極的にとらえており、調停での話し合いによる解決を模索しているみたいで、それに不安を感じた乙さんがインターネットの法律相談を利用したようでした。
乙さんはC弁護士の威勢のいい答えにすっかりC弁護士を信頼しているようです。乙さんは今にもC弁護士に委任しそうな勢いで、C弁護士が自分の居住地域で営業していないことを残念がっていました。
ただ、実際のC弁護士の詳細な回答を客観的に見ると、(裁判の帰趨を決する裁判官を含む)法律家の間ではおよそ一般的とは言えない回答がなされていました。
もちろん、私も常に一般論=正論と言えるわけではないことは理解しています。ときには一般論ではない正論を掲げて依頼者のために戦わなければならない場合があることもわかります。
しかし、事案の正確な把握が困難なインターネット相談で、独自の見解をあたかも絶対的な見解であるかのように威勢のいいことを述べて、藁を持つかむ思いの相談者を惑わせるようなことは厳に慎むべきではないでしょうか。
また、別の観点から気になる点もあります。
乙さんは「離婚したくない。」と希望しています。これは形式的に戸籍を別にしたくないということのみを指すのではなく、夫との間の夫婦としての共同体を失いたくないという意味だと思われます。
C弁護士の助言どおり調停での話し合いを拒否して離婚訴訟に突入することになれば、おそらく裁判の争点は夫の有責性であり、その点の主張反論が裁判で繰り返されることになります。「夫が○○した。」「いや、そのようなことはしていない。むしろ妻が○○した。」「夫は△△もした。」といった、あえて言うなら裁判の勝敗を掛けた夫婦間の悪口合戦が続くわけです。
そのような経緯を経て、仮に、夫の有責性が認められて乙さんが離婚訴訟に勝った(私は懐疑的ですが)としても、それは戸籍が別にならないということを意味するだけで、乙さん夫婦が夫婦としての共同体の姿を取り戻すことができるというわけではありません。裁判で悪口合戦を繰り返すなかでさらに深まった夫婦間の溝、すなわち、心の問題は法律や裁判ではどうすることもできません。
裁判をしても、乙さんの実質的な夫婦関係の維持はもはや困難であり、乙さんの希望は叶わないことになる可能性が高いものと思われます。
夫婦が仲直りを目指すのに裁判は不向きです。乙さんの質問に対し、私は「話し合いを模索すべき」とするB弁護士の意見に賛成です。さらに言えば、私なら乙さんに対して「自分の依頼している弁護士によく相談するように」と助言するでしょう。おそらく、乙さんが依頼している弁護士は諸事情を勘案のうえ乙さんのために適切な判断をしています。
C弁護士がインターネット法律相談で他の弁護士との関係で自己の優位性を示すような回答をした理由が、宣伝広告目的なのか、はたまた他に目的があるのか私にはわかりません。
ただ、いずれにしても乙さんが藁をもすがる思いで飛びついた、耳障りのよいインターネット法律相談の回答は決して乙さんにとっていい結果を導かないように思います。