預貯金と遺産分割
遺産に被相続人名義の銀行預金があるとします。遺産分割調停を申し立てる場合に何か留意しておくことはあるでしょうか。
預金は銀行に対する金銭債権たる性質を持ちます。
判例によると、金銭債権は「法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」(最判S29.4.8民集8巻4号819頁)とされています。つまり、金銭債権は相続人間の遺産分割を経るまでもなく、相続によって当然に分割されて権利を取得しているのだ、というわけです。
そのため、実は、本来、預金は遺産分割の対象ではありません。
もっとも、金銭債権であっても、遺産の範囲に入れて遺産分割の対象とすることに当事者が合意すれば、遺産分割の対象になります。
ですから、遺産分割調停を申し立てるにあたって、当事者間の合意を見込んで、預金を分割すべき遺産として申し立てても全く問題がありません。(むしろ、実務上は通常そのようにします。)
ただ、当事者間で合意に至らずに調停が審判に移行した場合、預金は審判の対象からは除外されてしまうことは念頭においておく必要があります。(最決H28.12.19にて判例変更がありました。遺産分割審判手続において,預貯金は遺産分割の対象となります。平成29年1月5日追記。)
調停から審判に移行した場合、預金に関して相続人の権利実現を図るためには、銀行に対して自己の相続分を直接請求する必要があります。(この請求には法的に正当性が認められるのですが、支払を拒否する金融機関もあります。その場合は訴訟手続で権利実現を図らなくてはなりません。)
また、何らかの事情で、預金がすでに引き出されていて、これを一部の相続人が保有している場合、その相続人に対して返還請求をすることになります。相続人が返還請求に応じない場合には、やはり訴訟手続を利用して権利実現を図ることになります。