自保ジャーナルについて
弁護士は自分の職務の参考にするために判例・裁判例が掲載された判例雑誌を購読していることが多いです。私も,判例時報,判例タイムズなどといった(業界内では)メジャーな判例雑誌を定期購読しているのですが,それとは別に「自保ジャーナル」という判例雑誌を定期購読しています。
この「自保ジャーナル」は株式会社自動車保険ジャーナルという会社が毎月2回発行しているもので,交通事故や保険金請求に関する判例ばかりが掲載されています。
もっとも,この自動車保険ジャーナルという会社の立場,スタンスからか,掲載される判例,裁判例は保険会社側に有利な結果であるものが多いです。(特に,保険会社からモラルリスク事案(不正請求)と評価されたと見受けられる事件に関して,請求認容の裁判例が掲載されているのを見たことがありません。火災については請求棄却でおおむね妥当な事案が多いと私も考えますが,死亡については請求棄却という結論に正直首をひねらざるを得ないような事案も目につきます。)
それはさておき,少し気になるのが「自保ジャーナル」の判例・裁判例の表記です。
2014年3月27日に発行された1914号ですが,目次には「75歳男子の自宅浴槽内での溺死は虚血性心不全等の意識消失が原因として保険金等の請求を棄却した 最高裁平成25年7月11日決定」と書かれています。
一見すると,「最高裁が何か重大な判断をしたのか!!」と思ってしまいますが,最高裁の判断の中身を見ると,そうではなく,単純に民事訴訟法上の上告,上告受理の要件を満たさないとした,いわゆる三行半決定をしたに過ぎないことがわかります。
若干補足すると,民事訴訟で上告が許されるのは憲法違反等といった場合に限定され,(民事訴訟法312条1項,2項)(交通事故,保険金請求の事件では憲法違反が問題になることは通常ありません。)また,上告受理申立が認められるのは,最高裁等の判例違反がある事件や法令の解釈に関する重要な事項を含む事件という極めて限定される場合に限られます。(民事訴訟法318条1項)
そして,いわゆる三行半決定とは民事訴訟法の定める上告,上告受理の要件を満たさないことを形式的に判断するだけであって,下級審の判断が実質的に妥当であるか否かを判断したものと言えるわけではないのです。
したがって,最高裁が実質的な判断をしたかのような「自保ジャーナル」の上記記載は誤解を招くものであり,正確さ,適切さを欠くものと言わざるを得ません。
類似の記載は2014年4月24日発行の1916号掲載の裁判例にもありますが,今後はもう少し正確,適切な記載に改めてもらいたいものです。