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相続放棄の申述

2017年6月26日 / 

 例えば、父が死亡し、父に莫大な借金があって、借金を相続したくないといったときには、子は家庭裁判所で相続放棄の申述受理の申立てができます。
 この相続放棄の申述受理申立ては、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に手続をとる必要があります。(熟慮期間といいます。)

 この「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続開始原因及び自己が相続人になったことを知った時と解され、通常、被相続人が死亡したときからとなることが多いでしょうが、例えば、被相続人と長年交流がなく、被相続人死亡の事実をずっと知らなかったなどの場合には、実際に被相続人が死亡したことを知った日が熟慮期間の起算点となります。

 もっとも、被相続人の死亡そのものを知っていたとしても、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、被相続人の生活歴,被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の事情があって、被相続人がそのように信じるについて相当な理由があると認められる場合には、熟慮期間は相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきとされています。(最判昭和59.4.27民集38巻6号698頁)

 

熟慮期間の伸長

2017年7月3日 / 

 相続放棄については3か月の熟慮期間が設定されていますが、この3か月という期間は意外と短く、例えば、相続放棄の判断をするにあたって、被相続人に債務があるかどうか調査しなくてはならないときには、3か月では足りないこともあります。
 そういったときは、熟慮期間の伸長を認める制度も用意されています。(民法915条1項但し書き)

 被相続人に借金があるけれども、その金額がわからない、調査に時間がかかる等といった場合には、熟慮期間の伸長も視野に入れつつ、相続放棄申述をするかどうか検討するとよいでしょう。

相続放棄の申述と民事効

2017年7月7日 / 

 家庭裁判所で相続放棄の申述が受理された場合に、被相続人の債務から確定的に免れることができるわけではないことには注意が必要です。
 すなわち、家庭裁判所が相続放棄の申述を受理することは、相続人から相続放棄の申述があったことを公証するにすぎず、民事上、債権債務関係の承継や存否を確定するわけではないのです。
 したがって、例えば、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理された後、被相続人の債権者から相続人に対して訴訟提起があった場合に、これを無視していると欠席裁判となって敗訴し、債務の支払い義務が認められてしまいます。また、裁判に出席して相続放棄の申述の受理があったことを主張しても、相続放棄の効果が認められないと判断されることはあり得ます。

 とはいえ、「被相続人が死亡してから」3か月以内に相続放棄の申述受理がなされている場合等、相続放棄の有効性を争いようがないようなケースでは民事訴訟で相続放棄の効果が認められないと判断されることはありません。そもそも債権者が訴訟提起してくることもまずないでしょう。
 問題は、相続人が死亡してから3か月を経過しているものの、相続の開始を知ったときから3か月以内である、さらには、最高裁の判例で示されている「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、被相続人がそのように信じるについて相当な理由があると認められる場合」であるとして、熟慮期間の起算点を後にした場合は、家庭裁判所での相続放棄申述受理が実務上比較的緩やかに認められていることともあいまって、家庭裁判所での判断と民事訴訟での判断が異なることはあり得ます。

 インターネット上には「相続放棄の手続を行います」「全国対応」などとして集客しているサイトが溢れていますが、その中で、このあたりのところをきちんと解説しているものは見当たりません。
 相続放棄の申述はそれ自体難しい手続ではないので、「被相続人が死亡してから」3か月以内に手続が行われるような明らかに問題がないケースは、(少し大変だとは思いますが)自分で手続を行うのがコストを考えるとよいと思います。
 しかし、やや問題があると考えられるケースは、家庭裁判所での相続放棄の申述受理後のことも考えて、しかるべき対応が可能な弁護士に依頼するのがよいと思います。

出会い系サイト被害(サクラサイト被害)

2017年5月19日 / 

 迷惑メール、SNS等を利用して巧みに自分が運営している出会い系サイトに誘導し、
「芸能人の○○だけど、友達になってください。」
「自分は××のマネージャーだが、××が落ち込んでいるので励ましてあげて欲しい。」
「莫大な遺産が手に入った。使い切れないので受け取って欲しい。」
「一緒に暮らしましょう。自由に連絡先を交換するためにサイトでのランクを上げなければいけない。」
等と男女間の情誼を利用したり、金銭授受をちらつかせるなどしてして、メールのやりとり等を行うための有料のポイントをだまして購入させるというのが典型的な手口です。
 もちろん、これらメールの送信者が本当に芸能人や資産家であることはありません。出会い系サイト側がポイントを浪費させるために準備したサクラです。サイトには美女やイケメンの写真が掲載されていますが、これはほとんどが流用されたもので実際に写真の人物がメールを送っていることはありません。

 サクラによる騙しの文句を冷静になって考えれば、おかしいことに気がつきそうですが、世界中の不特定多数人間とのコミュニケーションが可能なインターネットを利用していることから、「こういうこともあるのかも。」と思ってしまうようです。また、被害者がある種のマインドコントロールに陥ってしまっているかのようになっていることも少なくありません。

 これら出会い系サイト(サクラサイト)は責任追及を困難にするためか、転々とサイトの名前がかわったり、また、運営者が海外(しかもタックスヘイブン等で事業の実態があるとは思えない。)であったりすることも多々あります。また、その決済手段については、クレジットカード、収納代行、電子マネー、銀行振り込み等様々なパターンがあるのが特徴です。

 被害金額は数万円という少額から数千万円という多額の被害に遭った人まで様々です。
 当事務所でも約1500万円の被害に遭った人から依頼を受け、そのほとんどを回収した実績があります。

多様化する騙しの手口

2017年6月3日 / 

 多発している出会い系サイト(サクラサイト)被害ですが、近年、その手口は多様化、複雑化しつつあります。

多様化する誘導手法

 古典的な迷惑メールからの出会い系サイトへの誘導はもとより、LINE等のSNSからの誘導、さらには副業サイトだとおもって登録したら出会い系サイトだったとか、占いサイトから誘導されるとか、悪質業者がサイトへの誘導の手口は様々で、近時さらに巧妙化しつつあるといえます。

騙しの方法

 騙しの方法は多種多様ですが、結局のところ、
・金銭
・男女関係等
を餌にポイントを浪費させる等して、金を使わせるということに収斂されるのかと思います。

 もっとも、これら以外のその亜種ともいえるような(一見すると金銭関係、男女関係等とわかりにくい)騙しの手法、例えば、同情を買うようなことを述べてポイントを使わせようとする手法も見受けられます。(例:自分は富豪の執事だが病気のぼっちゃんの話し相手になってやってほしい。ポイント代は返すから等。)
 
 やりとりの相手のプロフィールの写真は美女であったり、イケメンであったり、ナイスミドルであったり、(たいていどこかで拾ってきた画像です。)職業は医者であったり、会社経営者であったり、弁護士、美容師、OL、モデル等様々です。
 もちろん、実際にはイケメンの医師等がメールのやりとりの相手ではなく、すべてサクラの仕業です。

占いサイト

 出会い系サイトではない、占いサイトで占い師(もどき)が変な呪文のようなメッセージをひたすら送信させるケースもあります。これは金銭授受や男女関係とは直接関係がなく、利用者の心の弱みにつけ込んで意味のない送信を繰り返させることによって金銭を浪費させます。

昔の借金の請求がきた場合

2017年5月10日 / 

 「かなり昔に借りた古い貸金債権の請求を受けている」「請求書のようなものは来ていたが無視していた」「差し押さえを受けた」といった相談が多くなりました。特に、近年は貸金業者や債権を譲り受けたサービサー(債権回収会社)が古い債権の回収を積極的に行っているような印象を覚えます。
 昔に借りた古い貸金債権は消滅時効が成立していること(支払わなくてよい)が多いのですが、対応を誤ると不利益を被ることがあるので注意が必要です。
 以下、何点か注意事項を指摘しておきたいと思います。

 

時効完成の期間

 債権者が会社の場合は5年、個人の場合は10年で時効が完成します。(消費者貸付の場合)

 

弁済で時効が中断、時効援用不可

 弁済を行うと時効が中断します。たとえば、アイフルの貸付につき4年が経過したものの(あと1年で時効完成となる。)その時点で弁済を行うと時効完成のスタートがゼロからになります。(あと5年で時効完成となる。)

 また、いったん時効が成立した場合に弁済を行うと、原則として時効の援用を行うことができなくなります。(支払わなくてよいということが言えない)
 時効が成立している古い債権について自宅等に取り立てに来て少額を支払わせて消滅時効援用阻止を図る業者がいるので注意が必要です。(もっとも、支払ってしまった場合もなんとかなる可能性があります。)

 

裁判所からの通知は無視しない

 昔の債権は通知等が来てもそのまま放置している方が大半です。ただし、裁判所からの通知(支払督促、訴訟提起の通知。簡易裁判所からであることが多い。)はそのまま放置していると後々大きな不利益を被る可能性が高いです。絶対に放置しないようにしましょう。(もっとも、放置していた場合もなんとかなる可能性はありますが。)

 

弁護士に早めに相談

 業者からの通知、連絡、裁判所からの通知のいずれの場合にも弁護士に早めに相談したほうがよいでしょう。早めの対策がリスク回避に有効です。

 

投資用マンションの被害

2017年4月13日 / 

 電話勧誘をきっかけに、「少しだけ話を聞いて欲しい」「賃料で住宅ローンを支払える」「ローンの返済が終われば不動産がそのまま残る」「家賃保証をつける」などと述べてマンションの購入を促す悪質商法が近年増加しています。
 販売業者の言うとおりにうまく行けばよいのですが、実際には、空室が発生したり、賃料滞納者が発生したり、原状回復費、リフォーム代がかかったり、思うように利益を得られないことが多々あります。また、家賃保証がある場合にも、家賃保証が短期間だけで終わる、賃料を一方的に減額されるような契約条項となっているといったこともあります。
 さらには、販売業者の提携する住宅ローンも金利が非常に高いものであったりすることもあります。

 このような投資用マンション販売には、威迫、強迫を用いたり、女性を利用した、いわゆるデート商法によるケースも見受けられるようです。

 マンション投資被害については、宅建業者によるものの場合には宅建業法に基づくクーリングオフ(行使がかなり制限されます)、無許可業者によるものの場合には特定商取引法に基づくクーリングオフ、さらには勧誘内容に応じて、消費者契約法上の不実告知、断定的判断の提供、民法上の錯誤、詐欺・強迫による取り消し、不法行為に基づく損害賠償請求を検討することになります。
 被害に気がついた場合には早めに専門家へ相談することが大切です。
 

遺留分減殺請求の概要

2016年6月6日 / 

 被相続人が有していた相続財産について、一定の法定相続人は、一定割合の承継が保障されており、これを遺留分といいます。
 遺留分制度の趣旨は、遺産形成に貢献した遺族の潜在的持ち分の清算にあるなどといわれています。(かかる趣旨に対しては近時批判もあります。)
 そして、被相続人が遺留分を超えて贈与や遺贈を行ったために遺留分が侵害された場合にはその処分行為の効力を失わせることができ、これを遺留分の減殺といい、遺留分減殺を内容とする相続人の権利を遺留分減殺請求権といいいます。
 以下、遺留分についてごく簡単に説明しますが、実際に遺留分の判定、行使をするにあたっては、細かい具体的事情や諸判例を考慮する必要があるので、一度弁護士に相談することをお勧めします。

 

誰が遺留分権利者なのか

 相続人となる被相続人の配偶者、子、直系尊属(父、母等)、子の代襲相続人が遺留分権利者です。兄弟姉妹は遺留分権利者とはなりません。
 相続権のない者についても遺留分はありません。例えば、子がいる場合の父母は遺留分はありません。
 

遺留分額の割合はどれくらいなのか

 直系尊属のみが相続人の場合・・・財産の3分の1
 それ以外の場合・・・・・・・・・財産の2分の1
 例えば、相続人として、配偶者、子2人がいる場合には、配偶者の遺留分は4分の1、子の遺留分は各8分の1となります。
 

遺留分算定の基礎となる財産は何か

 ●相続開始時の積極財産(債務は控除)
 ●相続開始前の1年間にされた贈与
 ●遺留分権利者に損害を加えることを知った贈与
 ●不相当な対価でなされた有償処分
 ●特別受益としての贈与(1年を超えるか否かにかかわらず)
 例えば、相続人として子A、Bがいて、Aに遺産(600万円)を全部取得させる旨の遺言がされており、かつ、Aが相続開始5年前に被相続人から贈与として1000万円を受け取っていた場合、Bには400万円の遺留分があります。((600万円+1000万円)×1/2×1/2)